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干された地図で旅行先を考える

剣一と十一番隊。

――――――

 


太陽がほんの少しだけ顔を見せ始めた早朝。
空はまだ暗いが、太陽の周りが赤く染まっている、そんな時間。
隣の大男の寝息がまだ聞こえる中、やちるは目を覚ました。

昨日の晩は特別寒かった。
普段、寝相が良い方ではないが、暖をとるためにギュッと布団の中に縮こまっていた。
お尻に当たる、湿った感触が非常に冷たい。
やちるはソロソロと布団から出て、掛け布団を静かに退けた。

「……やっちゃった」

草鹿やちる、人生最大の汚点。



身支度を終えて家から出ると、うん、と身体を伸ばした。
今日は良く晴れていて、昨晩の寒さが嘘のようにフワフワと暖かい。
こういう天候の日を、小春日和なんて言うんだなーと一護は思った。
昔の人は何ともロマンチストで、風情なことを考える。

仕事へ行こうと一歩足を踏み出した時、背後から視線を感じた。
殺気はない、が、それどころか何度も何度も感じたことのある視線と霊圧。
一護が振り返ると、視線の出所は家の影に隠れてジッとこちらを伺っていた。

「や、やちる!?」

やちるだった。
いつもは活気に満ちて、あちこちを飛び跳ねているような彼女が、小さな身体をより小さくさせて、不安そうに自分を見詰めている。
こんな朝の早い時間に尋ねて来るなんて珍しい。しかも一人で、だ。
只事じゃないと驚いた一護は、慌ててやちるに駆け寄った。

「やちる、どうしたんだよ?」
「…いっちー……」

髪よりももっと濃いピンクの瞳をふるふると潤わせて一護を見上げる。
こんな状態のやちるを見たことがない。
その瞳に更にギョッとした一護は、どうあやしたら良いかも分からず、小さな身体を抱き上げた。

「どしたんだ? 十一番隊で何かあったのか?」
「いっちー……、あたし…あたし、」



「おねしょ、ですか?」
「ああ」

思わず聞き返してしまった。
一角の朝稽古に付き合って道場の隅に座っていた弓親は、目の前に立つ剣八を見上げた。
面倒臭そうに言う剣八の肩に、やちるの姿はなかった。

「え、まさか隊長が」
「殺すぞ」
「スイマセン」

一角の冗談はバッサリと斬り捨てられた。
朝稽古で流れたものとは別の、冷たい汗がタラリと頬を滑っていった。

「副隊長はどうしたんです?」
「朝起きたらいなかった」
「逃げたんじゃないすか?」

今度は斬り捨てられなかった。
言われなくても、剣八も弓親もだいたいそのことは予想していたからだ。
だが、剣八にしてみれば、やちるが逃げようが逃げまいが、そんなことは大したことではない。
とにかく、部屋に放置してきたあの布団をどうにかしたい。

「どうでも良いから、布団片付けて来い」
「ええ、俺たちがですか?」
「他に誰がやるんだ」
「「……」」

剣八の目の前には、有能な部下が二人。
一角と弓親は互いを指差して、大きく溜め息を吐いた。

仕方ない、と二人が立ち上がると、道場の出入り口からよく知った二つの声が聞こえて来た。

「いっちーやめてぇ!」
「だって剣八の家行ったって、どうせ物干し竿なんかないだろ」
「そうだけどやめてっ」
「なんでだよ」
「だって、今道場入ったらきっと絶対、みんないるもん!!」
「良いじゃん、それくらい」
「いーやーあーっっ」
「あ、」

戸がガラリと開かれると、一護と、一護の背中に蝉のように貼り付いて喚くやちるがいた。
一角と弓親は、これはラッキーと小さく拳を握った。



「十一番隊におねしょの布団ってのも、可愛くて良いかもな」

道場の庭に立てた物干し竿。そして、それに干されているのは、大きな地図の描かれた一組の布団。
一護は布団の前に立って、爽やかに額の汗を手の甲で拭った。
縁側では、剣八と一角と弓親がその様子を眺めている。
やちるは三人と少し距離を置いて座っていた。

「あーあ、もう仕事遅刻だぜ」
「わざわざ悪かったね、黒崎」
「良いって、これくらい」

弓親の言葉に、一護はヒラヒラと手を振った。
おねしょの布団を干したのなんて何年ぶりだろう、と一護は微笑んだ。
双子の妹が揃ってした時にくらべれば、一人分の布団なんて容易い後始末である。

「副隊長が寝小便たぁ、やっぱりまだ子どもなんすね~」
「……」
「結構派手に広げたもんで。ぎゃはははは!!」
「こら、一角!!」

バシッ、と一護が一角のスキンヘッドと引っ叩いた。見た目よりも力強い一発だったらしく、一角は縁側から落ちた。
弓親は白い目で、転がるスキンヘッドを見下ろした。

一護はやちるの前まで行くと、鮮やかなピンクを優しく撫でてやった。

「そんな言い方するなよ、おねしょってした方は結構ショックなんだからな」
「いっちー……」
「知らない内にしてるんだもん、驚くよな。でもちょっとずつ直していけば良いんだし、やちるも気にしなくて良いんだぞ? また一角になんか言われたら、すぐ俺に言えよ。とっちめてやるら」

ニッと悪戯っぽく笑う一護に、やちるは抱き付いた。

父親代わりは剣八だった。
名前をくれて、いつでも傍にいて。
でも、母親は知らない。
流魂街にいた頃に見た母と子は、いつも幸せそうだった。
母親に頭を撫でられて、抱き締められて。
ちょっとだけ、羨ましかったことを覚えている。


「…お母さん、」
「……は?」

ボソリと発せられたやちるの一言は、一護は勿論、その場にいた全員の耳に入ってしまった。
一角は砂だらけの顔面を引き攣らせ、弓親は興味津々とばかりに二人を見詰めている。
剣八に至っては、痛そうに頭を片手が抑えて、盛大な溜め息を吐いた。
やちるを抱き締めたままの一護は、どう返したら良いのかも分からず、立ち尽くしていた。



END

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