修+恋+一。
一護は好きな子ほど苛めたがる人から苛められるタイプだと思う。
返り討ちだけど。
――――――
「檜佐木副隊長っ」
「あん?」
「これ……読んで下さい!」
突然現れた名も知らぬ女性死神は、修兵に何かを押し付けてあっと言う間に走り去ってしまった。
付き返すことも名を聞く暇さえも与えられず、修兵と、そして一護と恋次は唖然としながら去り行く後姿を見送った。
「……何だ、ありゃ」
「通り雨のようだった」
「その例えもどうなのよ?」
「それより先輩、何渡されたんすか?」
恋次の問いかけに、三人の視線が修兵の右手に持たれたそれに集中する。
それは真白な封筒で口には可愛らしくハートのシールで封がされていた。
何ともベターな、どこからどう見ても、昔ながらのスタンダードな。
「これってさぁ」
「なぁ?」
恋次と一護は顔を見合せて、そして修兵を見る。
修兵は困ったような表情で『恋文』を見降ろしていた。
「『ずっと影からあなたを見詰めていました。どうかこの想いを受け取ってください』だってさ。なんかストーカーみてぇ」
「ふーん、熱いねぇ」
「修兵さんどうすんの?」
「どうするもこうするも。どうともしねぇよ」
「ふーん?」
一通りの文章を朗読し終えて、興味が早々になくなった一護は封筒に便箋を戻して修兵に手渡した。
どうせだったら戻さないで一護か恋次の手で捨ててしまってくれれば良いのに。
昔の修兵ならともかく、今の修兵としてはこんな喋ったこともないような人と付き合うつもりは更々なかった。突然こんなものを押し付けられて頭に来ているくらいである。
「あ、名前書いてあるじゃん。返事してやれば?」
「面倒臭ぇよ」
「それは可哀想じゃないっすか? 折角書いたのに」
「頼んでねぇ」
「ケッ、何すかそれ。俺も言ってみてぇー」
「モテる男はムカつくな」
「ま、一護は恋文なんか貰ったことないだろうけど?」
「馬鹿にすんなよ! 俺だって恋文くらい貰ったことあるっての!」
「あっはっは、無理すんなって」
「……あるよ、一回だけ」
一回と言う思いも寄らないリアルな数字に修兵と恋次の目は大きく見開いた。
修兵が一護に思いを寄せているくらいなのだから、自分と出会う以前に恋愛の一つや二つ経験していたって可笑しくはいはずなのに、この黒崎一護という存在はなぜだかそう言う愛だ恋だというカテゴリーから外されていた。
まさか一護がそんな青春っぽいことを経験していたとは信じられない。
二人のそんな心境を感じ取ったのか、一護はムッと眉を寄せた。
「失礼な奴らだな」
「なっ、何も言ってないだろ!」
「言いたそうな顔してた」
「マジで貰ったのかよ」
「その後どうなったんだ!?」
がっ付くように聞いて来る二人に、一護は身体を背もたれに預けて溜息を吐く。
恋次はその様子に首を傾げて、そして急かすように机をドンドンと叩いた。
「勿体ぶるなよ」
「勿体ぶってねーよ……只、」
「只?」
「……あんまり、良い思い出じゃねーからさ」
首を傾げる修兵と恋次に一護はポツポツと話し始めた。
その話は、一護がまだ人間として生き、高校の制服を着ていた頃にまで遡る。
その頃の一護は、派手なオレンジ色の髪の毛で更に喧嘩が強いと言う噂が校内どころか他校にまで広げに広まり、毎日のように返り血を浴びているような生活をしていた。
「……今よりヘビーな生活だな」
「まぁな」
下駄箱に手紙が入っていれば果たし状。
体育館裏に呼び出されれば集団リンチ。
そんな日々を繰り返し、事件が起こったのは一護が朝登校した時のことだった。
靴を履き替えるのに下駄箱の蓋を開けたところ、そこには一通の封筒が上履きの上にちょこんと置かれたいた。
また呼び出しかとウンザリしながら封筒から便箋を出すと、いつも通り『昼休み、体育館裏にて待つ』の一言が書き記されていた。
昼休み、一護は呼び出しの通りに体育館裏へ向かった。律儀に呼び出しに出向いてやるのはクラスに迷惑をかけないためだ。以前一度呼び出しを無視したところ、呼び出した上級生が一護のクラスに殴り込んで来たことがあったのだ。
その時は空手部全国大会二位の幼馴染が応戦してくれたのだが、その日以来一護は呼び出しに応じるようになった。
目の前に立つ、一護を呼び出した相手は、その時の一護のクラスに殴り込んで来た上級生の男だった。
「俺はその時理解した、つもりだったんだ……こいつは決着がつかなかった喧嘩にけりをつけようと、タイマンを張る気なんだって」
「……おい、それってもしかして」
「……ひっでぇ」
「煩ぇ! 俺だって気付かなかったんだよっ」
黒崎、と思い詰めたように一護を呼ぶ上級生。
手を抜いたらこいつに失礼だと拳を握る一護。
上級生が一歩踏み出した時、一護は今までになく全力で目の前に立つ男に―――跳び蹴りを食らわせたのだった。
「しかも蹴りかい!!」
「何で蹴り!? その流れなら普通グーパンチだろ!?」
「人間、殴りより蹴りの方が威力があるからな。ちなみに鉄パイプとか長物を武器にするなら横スイングが基本だ」
「何て惨いことを!」
「男の敵っ!!」
たった一発の蹴りで上級生を伸した後、様子を見ていた男の下っ端が集まり本来の目的を伝えられたのだった。
「先輩はお前に告白するつもりだったんだぞ!! ってか」
「そう」
「確かに、良い思い出とは言い難いな」
「だろ? ま、気にしてるわけじゃねーけど、やり直せるもんならって」
「付き合いたかったのか?」
「まさか。そいつ俺の腹に思いっきりパンチ入れて来た奴だったし」
「……ヘビーだ」
「只……どうせ断るならちゃんと話聞きたかったなって」
「一護!」
「ん?」
数日経って、瀞霊廷通信を配りに来た修兵は帰り際、一護にスッと何かを投げ渡した。
ブーメランのように飛んで来たそれを上手く捕まえて見ると、それは白い封筒。
首を傾げながらも開けてみると、白い便箋に一言だけ修兵の字で書かれていた。
「奢ってやっから」
「……絶対に行くから!」
定時終わりで、甘味屋に来られたし
END
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